隋唐演義 〜集いし46人の英雄と滅びゆく帝国〜

コラム COLUMN

「隋唐演義」、原作からドラマまで

演義とは、史実をベースに民間伝承や虚構をまじえた通俗小説をいい、歴史小説と伝奇小説の両面を持つ。日本では「三国志演義」や「封神演義」がよく知られるが、「隋唐演義」も中国で人気の高い演義の1つ。作者は清代の褚人獲ちょじんかくで、隋の興亡を経て唐の建国、李世民りせいみんが二代目皇帝となるまでのドラマチックな時代を背景に、英雄好漢たちの活躍を描く。
隋と唐を舞台にした小説は他にもたくさんあり、その中で「隋唐演義」と並んでポピュラーなのが同じく清代の「説唐全伝」(作者不詳)。この2作をもとに、評書(日本でいう講談)の第一人者・シャン・ティエンファン(単田芳)が再構築したものが本作ドラマ版「隋唐演義」のストーリーだ。2つの人気小説のいわばいいとこ取りをしたわけで、たとえば李元覇りげんは宇文成都うぶんせいと楊林ようりんといった褚人獲の「隋唐演義」には登場しない「説唐全伝」中のキャラクターが、本作では「隋唐~」の面々と共存。人物関係と物語が、一段と波乱万丈に面白くアレンジされているのである。

大作ドラマならではの贅沢なキャスト

時代劇ドラマの楽しみは、見始めたらやめられなくなるストーリー展開はもちろん、キャストの豪華さもはずせない重要ポイントだ。本作では旬のアイドルからベテラン俳優まで、メインキャストからサブキャストまで、大作ドラマならではの贅沢かつ強力な顔ぶれが実現。主演級のスターが何人も参加し、個々のスピンアウト作品が見たくなるほどの存在感を発揮している。
とりわけ劇中の2大イケメン、“古装第一美男"ことイェン・クァン(厳寛)のさっそうとした男ぶりと、トップアイドルチャン・ハン(張翰)の気品あるみずみずしさは、日本でも女性ファンが急増しそうな予感。また、ジャン・ウー (姜武)とワン・バオチャン(王宝強)は映画・ドラマ共に第一級のキャリアを誇る演技派であり、本作では程咬金ていこうきん李元覇りげんはという中国では誰もが知る人気キャラに扮して忘れられない印象を残す。ワキを固めるフー・ダーロン(富大龍)、ドゥ・チュン(杜淳)、イン・シャオティエン(印小天)、チョイ・シウキョン(徐少強)、ケン・トン(湯鎮業)ら実力派スターの安定感、バイ・ビン(白冰)、タン・イーシン(唐芸昕)、ワン・リーコー(王力可)をはじめヒロインたちの、美貌だけではない自立した女性像も魅力充分だ。

武侠テイストも加味した多彩なアクション

世直しのため瓦崗寨がこうさいに集結した英雄好漢の物語、と聞くと「水滸伝」を思い出す人も多いだろう。「隋唐演義」も「水滸伝」と同じく、反朝廷ののろしを上げた男たちの絆と戦いぶりが最大級の見どころだ。本作のアクション監督・グオ・ジェンヨン(国建勇)は、国内外の映画で活躍し、ドラマ「水滸伝」でもアクションを担当した第一人者。一対多のバトルから、馬上戦、大規模な戦乱シーンまで数多くの迫力あふれる劇中アクションを見せてくれる。
一般に映画やドラマのアクションは、カンフーなどのリアルファイト系と武侠ものに代表されるファンタジー系に大別できるが、本作は実在のヒーローと物語世界の伝奇的キャラが混在する、いわば折衷型。朝廷側の人物が反朝廷の盗賊たちと意気投合して義兄弟になったりする人物関係は、むしろ武侠ドラマ的な感覚だ。そのぶん武器や格闘スタイルのバリエーションが豊富で、リアル感からかけ離れることなしに武侠テイストも加味したダイナミックなアクションが楽しめる。

今、時代劇は原点回帰の方向へ

中国は時代劇ドラマの激戦区。毎年のように多数の新作が送り出され、この「隋唐演義」の放映が始まった2012年末は特に話題作が重なった。その中で本作は視聴率上位争いを繰り広げ、後にはネットでも抜群の再生回数をマークした。
成功の要因の大きな1つが、「正統派時代劇」として歓迎された点にある。近年、中国の時代劇は多元化が進み、タイムスリップものがブームをまきおこしたり、新味を狙うあまり荒唐無稽さが指摘されるケースも出てきている。本作はそうした流行とは一線を画す、時代劇らしい時代劇なのだ。
クラシックな風格を基調にしつつ、重厚すぎずシリアスすぎず、青春ドラマ的エピソードやユーモア感も盛り込んだバランスの良さ。映画撮影の手法を採用した画面のクオリティ。そして、北京オリンピック開幕式の舞台設計も手がけた一流デザイナーによる衣装や美術のグレード感。それらが人気のあるストーリーとキャストをいっそう引き立て、高い総合評価に結び付いたといえるだろう。